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第60話 母娘を離さない檻

Auteur: なつめ
last update Date de publication: 2026-08-16 15:48:03

 旭の事務所に、重い沈黙が落ちた。

 怜司が差し出した封筒の中には、離婚協議停止に関する合意書が入っていた。詩乃は表紙の文言を見ただけで、指先が冷えていくのを感じた。

 けれど、そこに書かれていた内容は、単純な脅しではなかった。

 奏音を詩乃から引き離さない。

 奏音の居住場所には、必ず詩乃を同行させる。

 手術、転院、検体採取、退院後の療養について、詩乃の同意を必須とする。

 瑛子と芽衣には、詩乃の許可なく奏音へ接触させない。

 治療費と母の入院費は、怜司個人が継続して負担する。

 そこまでは、確かに詩乃と奏音を守る内容だった。

 だが、続く文言で、紙の色が変わった。

 詩乃は離婚協議を撤回する。

 奏音の手術後、母娘は怜司が用意する住居へ移る。

 法的な夫婦関係を継続し、離婚調停を申し立てない。

 朔弥との接触は、警護や治療に関する必要最低限に限定する。

 詩乃は、書類から顔を上げた。

「どうして、ここまでして離婚を止めるんですか」

 怜司は答えなかった。

「私は、もうあなたの妻ではいられません」

「戸籍上は、まだ妻だ」

「そういう話をしているのではありません」

 詩乃の声が震え
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